お茶 ~もてなしの心を込めて~
つぼ市製茶本舗(高石市) |
「お茶の特徴をそのまま引き出すのに、大阪の水道水が適しているんですよ」。水にお金をかける時代に、ちょっと意外な話を教えてくれたのは「つぼ市製茶本舗」の谷本順一社長(49)。幕末から続く老舗の5代目で、全国の産地に出かけ「これは」と見込んだ茶葉を買う。大阪の水に合ったお茶づくりを念頭に、茶葉選びやブレンドに磨きをかけている。
お茶の味には甘み、渋み、苦みといった要素があるが、水の硬度などでどの要素が強調されるかが変わってくる。多くの人においしく飲んでもらうため、水道水でいれた時に各要素がバランスよく引き立つよう、ブレンドしている。「(水道水の)蛇口から出る時に空気が交じり、水が生きるんです」と谷本さん。
茶は5月ごろ「一番茶」を摘み、秋口まで計3、4回の収穫期がある。中でも一番茶は長期間養分を吸っているため、アミノ酸などが多く、夏以降に摘まれる茶とは、甘みが格段に違う。谷本さんが買い付けるのは、ほとんどが一番茶。毎年5月、京都、静岡、九州各地の茶所を飛び回り、仕入れる。
買い付け時は、茶葉を湯にいれた状態で色、香り、味を見る。一度に100品以上並んだ中から目当てを見つける。味見はひとさじすくって口に含むだけ。感覚だけが頼りだ。「体調が悪いとだめ。味覚が狂わないよう酒、たばこはもちろん、味の濃いものは食べません」。
ペットボトルのお茶の普及で、茶全体の消費量は増えたが、半面、急須を使ってお茶をいれる機会が減っている。「お茶の間」という言葉こそあれ、食後に家族が集まってお茶を飲む、という光景も少なくなった。谷本さんは、こうした「日常のお茶(常茶)」こそ大切にしたい、と話す。
取材の前、自ら緑茶をいれてくれた。「お茶というのは、相対峙する人が心を込めていれるもの。お客さんには自分でお茶を出す、というのがうちの決まりなんです」と谷本さん。「もてなしの心がこもったお茶であれば、味は二の次」とも。それだけに、ペットボトルの功績は認めつつも、渇きを癒すためだけの飲み物ではいけない、との危機感がある。
同社は幕末の1850年、堺で創業。1945年、戦災に遭って高石に移ったが、谷本さんの堺への思いは強い。堺での新規出店の検討や、本来のお茶の味を見直してもらえるような商品開発を進めている。「千利休が完成した茶道は、ヨーロッパの茶文化にも影響を与えた。当時、その発信地となったのが堺。文化拠点としての地位を取り戻したい」
【花牟礼紀仁】
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